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  『アイヌ民族 近代の記録』小川正人/山田伸一編


いま読み返す―アイヌ民族の近代の歩みと言論の記録を集成!
ISBN4-88323-100-3 C3021  A5判 628頁 98年刊8500円  

【目 次】
第一部                             
樺太アイヌ申上書                     
近文アイヌ給与地紛争記録       
天川恵三郎手記/栗山国四郎翁手記/荒井源次郎上京日誌/近文土地紛争文書/ 浜益村給与地請願書
第二部                              
良  友(虻田土人学校良友会)                
ウタリグス(アイヌ伝道団)    
ウタリ乃光リ(チン青年団)  
 ウタリ之友(ウタリ之友社)          
  アイヌ新聞(アイヌ問題研究所・アイヌ新聞社)  
  全道アイヌ青年大会(関係新聞記事)  
  旧土人保護施設改善座談会(『北海道社会事業』)
第三部                              
  アイヌ物語(武隈徳三郎)          
  アイヌの叫び(貝沢藤蔵)  
  新聞・雑誌投稿   
  解平運動(森竹竹市)/アイヌより観たブルジョアジー(M・K生)/一アイヌの手記(川村才登)/見世物扱ひを中止せよ(森竹竹市)/ウタリーへの一考察 (森竹竹市)/アイヌ族よ起て(早川政太郎)/長官と同族へ(清川三蔵)/アイヌの名を廃せ(白老コタン生)           
資料編                            
アイヌ「保護」政策関係資料   
 「北海道旧土人保護法」とその施行規則など/土人保導委員に関する資料/救療及び救護に関する資料/互助組合に関する資料/共有財産管理に関する資料/教育に関する資料/根室県の「旧土人救済方法」/「北海道旧土人保護法」立法に関する議会資料/1937年「北海道旧土人保護法」改正に関する内務省資料
「北海道旧土人保護法」制定をめぐる議論       
  アイヌ人保護(白仁武)/北海道旧土人保護論(伊東正三)
アイヌ給与地関係資料    
 近文給与地関係資料/室蘭市・浦河支庁の調査復命書 
「旧土人に関する調査」(北海道庁) 
参考資料 1雑誌・新聞総目次/2参考文献目録 
解 題 小川正人・山田伸一    

【すいせん者】 ★新崎盛暉(沖縄大学教授)■アイヌ民族の発言を掘り起こす本書は、均質的国家の硬い殻を破ろうとする多様な少数者集団にとって共通な価値を持つだろう。 ★笹村二朗(北海道ウタリ協会理事長)■先人達の言論活動から先人が闘ってきた軌跡を学び直してこれからアイヌ民族の子孫が暮らしやすい方策を考えたい。 ★永井秀夫(北海道大学名誉教授)■私達は本書に出てくるアイヌ民族の怒りや悲しみに耳を傾けて、アイヌの置かれてきた位置を読みとらねばならない。


■朝日新聞 1998.3.8 新刊 
私の◎◯ 鎌田慧  
アイヌはつい最近まで国から「土人」扱いされていた。アイヌを滅ぼしかけた和人側の記録「旧土人に関する調査」(北海道庁内務部)は、心の痛みなしには読むことができない。貝澤藤蔵の「アイヌの叫び」は襟をただして読んだ。アイヌの歴史を知る貴重な一冊。(ルポライター)

■日本経済新聞 1998.2.22
アイヌ民族の近代史  
関心の高まっているアイヌ民族問題の中から、近代の歴史に焦点を絞った詳細な資料集が出た。『アイヌ民族 近代の記録』(草風館)がそれだ。 アイヌ近代史の資料としてはこれまで、1972年に出た『近代民衆の記録5アイヌ』であったが、既に絶版。アイヌ研究者が不便を強いられていた。今回、発売された本は「25年前の本に載っていた資料をすべて洗い直し、さらに現在のアイヌ民族をめぐる事情に合わせて構成を考えた」と編集担当者は語る。具体的には、文字を持たないアイヌの人たちが、明治初期に初めて日本語で残した文書「樺太アイヌ申上書」に始まり、彼らの発行した新聞や雑誌などでの発言をたどっている。

■岩手日報 1998.3.17
アイヌ民族の言論の記録刊行  
昨年「アイヌ文化振興法」が制定され、アイヌ民族の歴史と文化への関心が高まっている中、近代アイヌの言論活動を中心にした資料集「アイヌ民族近代の記録」(小川正人・山田伸一編)が草風館から刊行された。  
収録された資料は、第一部に北海道開拓政策の中で当時公刊されなかった強制移住、給与地問題、第二部にアイヌがかかわった雑誌、新聞論説、報告など。第三部は未紹介の個人の投書や論説で、鋭い問題提起を知ることができる。また資料編にはアイヌ「保護」政策関係資料、「旧土人に関する調査」など開拓政策の骨格となったものを収めた。近代アイヌ史の理解のために貴重な資料集だ。

■朝日新聞 1998.3.29
もうひとつの植民地覚醒へと向かう記録 
赤坂憲雄  
アイヌ民族をめぐる状況はいま、大きな変容を遂げつつある。昨年は、二風谷(にぶたに)ダム訴訟で、アイヌを先住民族として認める判決が下され、「旧土人保護法」の代わりに「アイヌ新法」が成立した。そこに、この大部の資料集が刊行されたことの意味は、かぎりなく大きい。旧版を元にして、近代におけるアイヌ民族の言論の記録を中心に編み直された資料集である。アイヌ自身の生々しい声が幾重にも交錯し、谺(こだま)している。現在に地続きの問いの群れだ。  
「土人」といい、「滅びゆく民族」という。言葉の暴力がむき出しに転がっている。「滅びゆく民族」は哀愁に包まれ、同情を呼び、見せ物の舞台に引き出され、保護を必要とする人々となる。和人とその国家・日本こそが侵略と収奪の主体であったことは、巧みに隠ぺいされる。沖縄とは異なった、もうひとつの植民地の荒涼たる景観が横たわっている。  傷つき、足掻きながら、迷いと逡巡にみちた自問自答がくりかえされる。アイヌは遅れた、滅びゆく民族なのか。保護とは何か。奪い尽くすことと引き換えに与えられた保護、それが自立への道を閉ざしているのではないか。伝統文化、たとえばクマ祭りとは何か。野蛮の象徴なのか、守るべき文化なのか。無知ゆえにだまされ、奪われてきた過去である。先住民族としての歴史の回復から、民族的なアイデンティティーの新たな模索と確立へと向かう、若きアイヌの群れが、しだいに姿を現してくる。これはいわば、アイヌ民族が手探りに覚醒(かくせい)へと向かった記録である。  
それにしても、くぎを刺すように、言論だけがその時代の歴史ではない、という「当たり前の想像力」を求める編者の姿勢には、共感を覚える。同化と抵抗という枠組みを脱して、「ふつうの歴史」としてのアイヌ史が、やがて登場してくる。心地よい予感だ。東北を仲立ちとして、そのアイヌ史が列島の民族=文化史につながれてゆく時代もまた、すぐそこまで来ている。そのとき、農本主義に立ったアイヌにたいする植民地支配の意味が、新たな視座から問われる。瑞穂(みずほ)の国によって「いくつもの日本」を覆い隠すことはできない。(東北芸術工科大教授)

 

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