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 「アイヌ神謡集」を読みとく
片山龍峯編著

■この一冊で名著『アイヌ神謡集』(知里幸恵著)のアイヌ語が初心者のも読める。
ISBN4-88323-133-X C2087  B5判 488頁 03年6月刊 本体2800円

編著者:片山 龍峯(かたやま たつみね)1942年 東京生まれ。東京外国語大学ポルトガル・ブラジル語学科卒業。片山言語文化研究所代表
著書:「萱野茂アイヌ語会話初級編全4巻」「日本語とアイヌ語」「アイヌ語日常会話集」「カムイユカラ」「ウパシクマ」「クマにあったらどうするか」

目次 アエキルシ aekirusi (a=e-kir-usi 人・〜で・〜に覚えがある・所)
1.シマフクロウ神が自らをうたった謡「シロカニペ ランラン ピシカン」
kamuycikap kamuy yayeyukar / Song sung by the owl god
2.キツネが自らをうたった謡「トワ トワ ト」
cironnup yayeyukar / Song sung by the fox god
3.キツネが自らをうたった謡「ハイクンテレケ ハイコシテムトゥリ」
cironnup yayeyukar / Song sung by the fox god
4.ウサギが自らをうたった謡「サンパヤ テレケ」
isepo yayeyukar / Song sung by the hare god
5.谷地の魔神が自らをうたった謡「ハリッ クンナ」
nitatorunpe yayeyukar / Song sung by the dragon god
6.小オオカミの神が自らをうたった謡「ホテナオ」
pon horkewkamuy yayeyukar / Song sung by the little wolf god
7.シマフクロウ神が自らをうたった謡「コンクワ」
kamuycikap kamuy yayeyukar / Song sung by the owl god
8.シャチの神が自らをうたった謡「アトゥイカ トマトマキ クントゥテアシ フムフム!」
repun kamuy yayeyukar / Song sung by the killer whale (orca) god
9.カエルが自らをうたった謡「トーロロ ハンロク ハンロク」
terkepi yayeyukar / Song sung by the frog god
10.小オキキリムイが自らをうたった謡「クッニサ クトゥン クトゥン」
pon Okikirmuy yayeyukar / Song sung by little Okikirmui
11.小オキキリムイが自らをうたった謡「タノタ フレフレ」
pon Okikirmuy yayeyukar / Song sung by little Okikirmui
12.カワウソが自らをうたった謡「カッパ レウレウ カッパ」
esaman yayeyukar / Song sung by the otter god
13.沼貝が自らをうたった謡「トヌペカ ランラン」
pipa yayeyukar / Song sung by the swamp mussel god.

 「はじめに」から
「アイヌ神謡集」が出版されて今年で80年目を迎えます。そして、著者の知里幸恵が生まれてからちょうど100年の節目の年となります。初版は郷土研究社というところから発行され、その後、弘南堂から補訂版が出され、さらに岩波文庫版が作られ、それも既に31刷を数えるまでに版を重ねています。静かなるベストセラーといえるでしょう。最近では、話題になった「声に出して読みたい日本語」(斎藤孝著)の中に並みいる文豪たちと肩を並べて収められています。時代を経て読み継がれてきた名著であることは誰しもが認めるところでしょう。
 一方、アイヌ語の本という視点から見ても、これほど多くの人々の手に渡っているアイヌ語の書物はありません。しかし、実のところこの本はその半分しか評価されてこなかったのです。この本の半分を占めるアイヌ語で書かれた左側のページは、ほとんどの人には理解不可能な無縁のものとして見過ごされてきたからです。そのローマ字で表記されたアイヌ語なるものがどんな発音で、どのような抑揚をもち、いかなる意味を持った言葉なのか一般の読者には想像も出来ないものとして出版以来80年の年月を重ねてきたのです。知里幸恵は序文で、アイヌ語が消え失せてしまうことがあまりにも痛ましく名残惜しいと思ってこの本を書いたこと、そして、多くの人にこれを読んでもらえるならば無限の喜びだと書いています。この言葉のように、彼女の最も望んでいたことは、消えるかもしれない危機に瀕したアイヌ語を書きとめ、一人でも多くの人に読んでもらいたいというものでした。それにもかかわらず、出版されて80年経った今も肝心のアイヌ語はほとんど読まれず、日本語だけしか読まれていないという事情は変わらないのです。
 昨年の5月、私は何気なく「アイヌ神謡集」を手にとってページを繰っていました。そのとき、ふと上記のような事実に気がついたのです。私は、アイヌの女性、中本ムツ子さん(北海道千歳市)とこれまでにアイヌ語の本とそのCD化したものを出版してきました。そうした経験から、誰しもがアイヌ語を読みその意味が分かる解説書と、その発音がわかるCDを作ることは十分可能だと思いました。かつて「カムイユカラ(神謡)」(全6話)を出版したときも、解説書を書きCDも作りました。この「アイヌ神謡集」の解説書もその延長線上にあると考えたのです。
 「アイヌ神謡集」には辞書にも出ていない言葉が数多く現れます。研究書でも不明として残してあります。あるとき私はその不明語の幾つかに取り組んでみました。そして私なりの答えが出せるものがあることを知りました。もっと時間をかければさらに多くの不明語も分かってくるかもしれない。こうした気持ちも加わって、今まで誰も手をつけなかった「アイヌ神謡集」の解説書を書くことにしたのです。しかし、私のような浅学には荷が重過ぎることは重々承知しています。しかし、誰かが今踏み出さなければ、また知里幸恵の望みが無にされたままの状態が続くように思えました。生誕100年というこの節目の年に「アイヌ神謡集」の半ばを占めるアイヌ語の部分が多くの人々に読まれるようになれば幸恵さんも喜んでくださるのではないでしょうか。
 「アイヌ神謡集」は世界で初めてアイヌ自身の手で文字化されて出版された記念碑的な書です。わずか19歳の女性がこの偉業を成し遂げ、その直後にこの世を去っていきました。金田一京助は、この本のあとがきで「アイヌ語の唯一のこの記録はどんな意味からも、とこしえの宝玉である。唯この宝玉をば神様が惜しんでたった一粒しか我々に恵まれなかった」と書いています。この生誕100年の年を期して「アイヌ神謡集」が多くの人たちにアイヌ語としても読まれるきっかけになってほしい、その思いを込めて本書を著しました。
 

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